ハッピーエンド
朝の紅茶を野菜スープに替えた。6種類ほどの野菜を30分煮込んだだけで、塩などで味付けしない、滋味あふれるスープ。少し青臭いが健康のためである。
一昨年、古希を迎えてから、さらに身体に気を配るようになったが、この健康はいつまで続くのかと思うことがある。自分の最期を想像しない人はいないだろう。
ずいぶん前のことだが、「飛行機事故で死にたい。」と発言した文化人が、無神経だと非難されていた。突発的な死は、本人はもちろん周りの人間も容易に受け止ることが出来ない。
その一方で、ピンピンコロリを目指す自分の、理想の最期を夢想してみた。
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今朝も、連れ合いが作ってくれた野菜スープを味わい、愛情のこもったほのかな甘みに幸せを感じている。一昨年、卒寿を迎えたが大病を患うことも無く元気でいられるのは、この食生活のおかげだ。ひと回り年下の連れ合いは80歳になり、同じく元気ではあるが、目下の心配はどちらかが「一人」になってしまうことだ。
「明日の野菜スープ、プチトマトを使おう。」と提案され、二人で庭に出る。真夏の太陽に照らされてトマトは鈴なり。真っ赤に熟れて弾けているものもある。籠にせっせと収穫する横で、わたしは雑草を引き始める。土の匂い。草の匂い。地面に顔を近づけてみると、意外にもひんやりしている。心が安らいでゆく。土に還るとはこういうことなのかなと、頭の片隅で思う。あんなにやかましかった蝉の合唱はもう終わったのか。音の無い世界に居るようだ。連れ合いを見ると、トマトを枝ごと抱えたまま座り込み、眠っているように見える。もしかしたら「一人」になることなく、このまま二人ずっと一緒に居られるかもしれないと、わたしもゆっくり目を閉じた。
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「熱中症に厳重警戒、不要不急の外出は出来るだけ控えて下さい。」
朝のトップニュースは最近いつもこれだ。
あと20年は元気でいるぞ!と、水筒持参で今日も仕事へ向かう。