10年分の乾杯
アカイさん(仮名)は、40年来の知人である。彼は取引先の営業マンであったので、普通は仕事を離れてしまうと、それっきり。せいぜい年賀状で年に一度、生存確認をする関係で終わってしまうところだ。しかし、同い年の彼とは、共有し共感できる話題が多く、その穏やかさや、どこかの方言と標準語がない交ぜになった、上品な語り口に魅かれて、仕事の取引が終わってからも、彼との付き合いは続いていた。歳を取ると一年は早い。メールではやり取りをたまにはしていたが、気が付くと最後に会ってから10年の歳月が流れていた。
10年ぶりの再会は梅田の阪急中央改札前。人混みの中、アカイさんを探す。あれかなぁ?と自信がない。マスクを外した笑顔を見て安心した。昔のまんま、少し年を取ったアカイさんだった。
カウンターだけの小さな焼き鳥屋で、ひたすら呑んでしゃべって食べてまた吞んで、終電までとりとめないもない話題で盛り上がった。これからは頻繁に会おうと言って別れた。
アカイさんとの再会のあと、60代半ばで急逝した取引先重役のお別れ会に参加した。その翌週には身内が入院し、手術に付き添った。元気でいること、生きていることの手ごたえをしっかり掴んでいたいと強く願ったのだ。思い立ったらすぐ動く。アカイさんに電話して、翌日京都で会う約束をした。会うなり彼は「この前会ってからまだ3週間しか経ってないよ。」と言うではないか。それでもまた話題は尽きることなく閉店まで喋り、10年前彼から貰った梅干しの存在を思い出して、翌朝から一粒づつ食してる。
つぎはこの梅干しがなくなったころに、電話するつもりだ。 山田